洋風建築に和を取り入れたデザインで
日本の近代住宅の先駆者として活躍した
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。
滋賀にはたくさんのヴォーリズ建築が残されていますが
そのなかでも初期の作品として知られているのが安土町の
「旧伊庭邸住宅」。
安土町指定文化財で、いまは安土町郷土館となっています。
秋の一般公開が行われているこの機会に、
100年前に建てられたこの屋敷を訪ねてみました。
<2008年秋の一般公開>
■公開期間:9月14日~11月30日 日曜のみ
■公開時間:午前10時~午後3時
■入館料 :協力金200円
たくさんの木々に囲まれた伊庭邸は木造3階建ての住宅。
大正2年(1913年)の建築です。
建物の主体部分の外観には「ハーフティンバー」と呼ばれる化粧梁が見え
屋根は天然石スレート葺きの切妻。その上には煙突が見えます。
英国の中世からの伝統的な様式を伝える洋風建築になっている一方で
玄関部分などは日本の伝統的な入母屋造りで妻入桟瓦葺きで構成されていて
建設当時、大いに珍しく目をひいたのはもちろん、
和洋折衷のさきがけであるその構成は、いまも私たちの目をひきつけます。
館内への入口は遠めからは和式の玄関に見えますが
その扉は山荘を思いおこさせるような洋風。
ボランティアガイドの方が出迎えてくださり、案内していただくことができます。
畳敷きの玄関間の向こうに続くのは長い廊下。
廊下はどこか洋風の構造にも見えますが、竹や小丸太など数寄屋の材料も使われていて
そこに座敷が面しています。
座敷にはここにお住まいだった伊庭慎吉夫妻の写真が。
慎吉氏は、住友家第二代総理事を務め別子銅山煙害問題に心血を注いだ伊庭貞剛氏の四男。
自身はフランスに留学し絵の教師を務めた人物で、屋敷近くの沙沙貴神社の神主に就いたあと
2度にわたって安土村長を務めています。
芸術家たちとの親交が深く、ここがサロン的な役割も果たしていたとか。
1階は和風が基調になっていて、座敷は書院風の造り。
付け書院や縁側にしつらえられた地袋などには斬新な意匠もみられます。
建物の中央、座敷の向こうには階段ホールがあり、奥は食堂。ここは洋風です。
食堂には石積みの暖炉があって、その両側にソファスペースが。
ここは和風民家の「囲炉裏端」を意識したものなのかも、と感じました。
食堂からは温室風の洋間(テラス)に出ることができ、外の庭へ続いています。
外から見るとテラスは山荘風の石づくり。
その奥には外へと出られる和室があり、ここが玄関だったのでは?とも言われているそう。
2階は全体的に洋風が基調になっていますが、
建具や天井に和のテイストが取り入れられているところも。
屋根裏を利用した3階からはベランダに出られるよう工夫がされているようですが
そこは非公開。
外からもぐるりと眺めてみると、改めてその風格ある姿に圧倒されるよう。
ヴォーリズ初期の意欲あふれる作品といわれる旧伊庭邸。
日本の気候風土や習慣を愛し、依頼者の求めに応じる奉仕の精神を貫いた
彼の特質がよく現れているとされ、当時この地では異色だっただろう洋風建築が
受け入れられ、親しまれたのだとも想像できます。
公開の機会に、ぜひ足を運んで実物を目にしてみてください。
※情報は2008年10月現在。詳しくは直接お問い合わせください。
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旧伊庭家住宅(安土町郷土館)
★住所 蒲生郡安土町安土町小中191
★電話 安土町教育委員会0748-46-7215
★入館 協力金200円
★公開 2008年9月14日~11月30日の日曜のみ開館
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